短歌集Ⅰ

うたはただこころ伝えるてだてにて 想いよ届け言の葉に乗り

詞はいつも啓示のごとく顕れて 筆記用具を医事課に借りる 


歌碑の文字判じず空を見上げれば 桜並木は新緑に染む

森の葉を五色に染めて降り注ぐ 木漏れ日の中歩いて行けり


紫陽花の蕾は未だ小さくて 雨来る前の風のさやけき

コブシの葉 風車にして遊びたる 少年の日は空の彼方に

新緑の森に静かにまどろめば 鳥の会話は詳らかになる


花は咲き緑深める山峡の 蒼天のなか鳥は飛びゆく 

山肌に日は傾きて蝶の群れ 花びら風に舞い散るごとく

杣の湯の露天に独り沈みなば みどり木抜けて夏の風吹く 

鳥甲山 険しとみせてふところに 出で湯の宿を多く抱けり 


空と海さかいは煙りなぎさには 白き波立ち雨は降り次ぐ 

水鳥が群れなす如くサーファーは 遊び興じぬ波立つ辺り

汀では波は静かに寄せ返し 奏でる歌に夏は近づく

 

フラッシュの放列のごとひかり溢る ふたりを映す午後4時の海 

子供らと波間に浮かび蛸追いし 夏の日差しは蘇り来る


 ひとときの休みに筆を走らせる 今日の疲れを言葉に変えて

 目覚むればベニシジミ一羽はいり居て 指先に停め空に放てり


 夏木立おろちは沢を渡り行く  蜻蛉の里 優曇華の花

 土曜日に昼酒飲みて微睡せば 昔のことは思い出づるか  

 雨降らずダム湖の水は少なくて 陸にボートは係留される


 夏おとこ粋がりおるも西日さし 暑さ厳しく早くもダウン

 空を見よ翼広げたアルタイル こと座を目指す航路につけり

 夜半には君待つ星に着けるよと 何処かで誰かメール打つかも

 冬はイブ夏は七夕春さくら 恋を囁くネタは尽きまじ   



 熊捕の術(わざ)はなかなか難しく 浅草岳の夜は更け行く

 年を経るたびに何かが減ってゆく 吾をたれかよ励ましてくれ

 葉桜のみどり深める下にいて 我がいのちかなと思うことあり

 病棟の窓の外には守門岳 給水塔の彼方に遠く 


 この夏に恋を語りし浜辺には 人影はなく海猫が鳴く 

 入り日射しもみじ葉燃ゆる山峡に  平氏の姫は身籠もりて居り

 からころも着つつ山家(やまが)の秋は逝く 龍棲むと云う淵の水染め 


 風は泣き防波堤越す波しぶき 越佐海峡冬景色

 海猫一羽鳴いて波間を飛び行ける 雲の切れ間に射す陽目指して 

 紅葉は海辺の町に降り来たり 冬風に乗り空に舞い散る

 釣り人は防寒服に身を包み 時化の波止場に竿を立てたり 


 波高3m 白波は立つ海の果て 微かに見ゆる佐渡の稜線 

 海鳴りは夜行列車の音に似て すべてを棄てて旅に発ちたき

 そがむかし吾が恋し人まどろみの 夢に出でみようつつにもこそ  


 職場にて女のいくさする妻よ 勝っても負けてもとことんやって来い

 あんた一人くらいなら私が養って上げるわよと 妻を励まし二人で笑う  


アイデアが閃きつある昼休み 海の水面に日は照り返す

河口から出でにし水と海の水 せめぐ辺りに白波は立つ

カフェインを摂りすぎかなと思いつつ コーヒー砂糖カップに盛れり  


とにかくに問題ばかり湧きいずる 独立すると娘が云わむ

独立を認めるべきや否なるや 悩む思念の先は曇れる

吾もまた十八のころ独立を 夢に見しとぞ妻は云うらん

なるようになると腹を括りなば 田野の空も薄曇りなり

病者とて健者だとての区別なく 一家の舵を取るは難し


お母さんが大変なときだから家に帰ろうかと長女はいわむ 

次女もまた独立計画延期すと吾には云はで妻に云うなり

皆よそを向きたるごとき家族なれど 絆たしかむ事件となるや


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