新人哀歌と民主化


1.

いいぞいいぞと おだてられ

死に物狂いで 来てみれば 

朝から晩まで 飯たきで 

景色なんぞは 夢のうち 


2.

チーフリーダーは 爺くさい 

サブリーダーは 婆くさい 

あとのメンバーは エロくさい 

メッチェン通れば 頭右 


3.

二年部員は 小生意気 

先輩なにかと 話好き 

地獄の二丁目 山岳部 

好んではいる 馬鹿もいる 


4.

蝶よ花よと 育てられ 

何の苦労も 知らないで 

ボッカ稼業に 身をやつし 

泣き泣き登る 雪の山 


5.

家へ帰ればお坊っちゃま 

山へはいれば 新部員 

何の因果でしごかれる 

まぶたに浮かぶ 母の顔 


6.

いわゆるアノコはお嬢さま 

おれはしがない 山がらす 

月を眺めてあきらめる 

笑ってくれるな お月様 


  

高校1年と2年のある時期、山岳部に所属していた。生物部の合宿で行った尾瀬が余りにも素晴らしく、その話をしていたら、前の席の奴が、くるっと振り向いて 、山はいいだろうと、にっこり。これが運の尽きだった。


1.これはその通り。

2.これもその通りで、私も頭右の一人。


3.20キロから30キロのキスリングを背負って登って行くと、バテて遅れる。すると、小生意気な2年部員がやってきて、前から後から叱咤激励する。怒りが湧いてきて、そのエネルギーで登れる。頂上に着くと何もかも忘れて、『先輩のおかげで来れた』と思えるのが不思議。OBが近づいてきて『よく頑張った』とか言いながら、アメ玉くれてなんだかんだと話す。『ホントに話し好き』 辞められたら困るんだ。なんか、ほんと『2丁目』。


4.春山合宿は冬用の装備を背負って、雪渓を登るのだが、これがメチャクチャ重い。設営地でテントなどの設営を済まして、ピッケルを使ってグリセードや滑落停止訓練。この頃になると飯炊きも慣れたものだ。顧問とOBはテントで酒盛りを始める。新部員は、少しジンの入った井村屋のジュースの素を、廻し飲み大人の気分を味わう。各自毛布1枚、折り畳みスコップ渡され、2人一組で何処かで寝て来いと放り出される。雪に穴を掘り雪洞を作る。ビバーク訓練だ。ポンチョを敷いて、ありったけの個人装備を着込んでも寒い。


5.山岳部員は、他の運動部員から言わせれば、軟弱者の集まりだから、♪なああんの因果でしごかれる♪となる。

6.通学電車で見初めた娘に告ったら、見事に振られた。忘れられない。忘れられない。♪笑ってくれるなお月様♪切ない思い出だ。


 2年になると3年部員は、受験などのためほとんど部室に来なくなる。それで我々が中心になるのだが 、『これからは山岳部も民主化しなければならない』なんて奴が出てきて。『民主化ってなんだ』、『俺もよく解らんが、なんでも、手を携えて歌を歌いながら登るらしい』。私たちは『民主化』に向かって走り始めた。


 まず新部員が中心だった団体装備を、2年部員も背負うことにする。15キロ超くらいで個人装備に毛が生えた程度。しかし、山の中で泣き出す奴が出てくる。新部員と言ったって、中学出たばかりのほんの子供だ。 叱咤激励は出来ない。他の新部員もみんなバテているから、2年部員で彼女の装備を持つ、しばらく休ませて、騙し騙し登るのだが、これがまた大変。頂上に着くと、お礼の言葉も無くはしゃぎ回る。先輩にタメ口聞く奴が出てきて 、民主化なんてこりごりだと思った。


 夏合宿はアルプス縦走だが、沢が増水して遭難した。顧問の判断でビバークして、全員無事だったが、新聞には出た。それ以来、ほとんど山には登っていない。たまに個人装備で友達と登っても面白く無い。


 近年、家内を尾瀬に連れて行ったところ、すっかり「山ガール」になったつもり。ロープウエーの付いた山を中心に登ってる。荷物が軽すぎるので、家内用のビール(運転があるから私はだめ)を積む。頂上で飲むコーヒーやカップヌードル用の水も積んで登る。


 家内との山行はなぜか楽しい。 あろう事か、次女と山小屋泊まりで富士山に挑戦した。 高山病など心配だが、ツアーなので大丈夫だろう。私はヘビースモーカーなのでパス。今年は八ヶ岳縦走。涸沢カール泊。上手く行けば、車選びも含めた、今後のライフスタイルにも、大きな影響があるかも知れない。